旅ゴルフ:BANDON DUNES Golf Resort〜スコットランドのリンクスをアメリカで〜その1


Bucket List(バケットリスト)/生きてるうちにやっておきたいこと

欧米に『Bucket List=バケットリスト』という言い回しがあります。「死ぬ前にやっておきたいことや達成したいことを書き出したリスト」という意味で、バケットはつまりバケツのこと。

なんでバケツのリストなのかというと、その語源は「kick the bucket=死ぬ」という穏やかではない俗語から。バケツを蹴っ飛ばしてぶらーんってなるってことです。縁起でもない出だしで申し訳ありませんが、英語ってこういう身も蓋もない直截的な表現が結構あるのです。日本語は漢字や熟語が豊富なので一語でビシっと表現したり、逆にふんわりとした言い回しにもできるけど、英語はそうじゃないのでビシっと伝えるには工夫が必要で、そのおかげで面白い表現が生まれることも多々あります。

例えば「近場で済ませるな」は英語でビシっと言えないので、俗語ですが「Don’t shit where you eat」という言葉が生まれました。まあそうですね、その二つを同じ場所でおこなうのは得策ではないですね。『SATC』ってドラマで、同じマンションの人と付き合って別れた後にバッタリ出くわすことが多くて気まずいなって時にミランダさんが言っていて、なるほどうまいこと言うなーと感心した次第です。また、日本語の「懐かしい」という表現は他の国では概念自体がないらしく、アメリカ人の友達はその概念を知って感動して、その後は「Oh, it’s so NATSUKASHII!」と日本語をそのまま使うようになりました。

さて、バケットリスト。アメリカにはそのものズバリ『The Bucket List』という映画があります。邦題は『最高の人生の見つけ方』。2007年公開、ロブ・ライナー監督の作品です。日本語にピッタリくる概念がないせいもあり、まどろっこしくて抽象的な邦題になりました。が、頑張ってつけたんだろうなあという苦労の跡が伺えます。

日本で映画を観るとき、漠然と邦題を受け入れる前に、原題をちょっと調べてみるとなかなか面白いです。モノゴコロついて一番の衝撃は、リチャード・ギアが切なくて愛おしくてデブラ・ウィンガーがブチ可愛かった『愛と青春の旅だち』。そもそも、なんで『旅立ち』じゃなくて『旅だち』にしたのかを知りたいところですがそれはさておき、原題は『An Officer and a Gentleman』。

よくできた映画なのです。邦題についても映画を観たあとなら「まあ、そうね、わからないではないけど」と思えるものの、たくさんの人に観てもらいたいときに、甘ったるい題名はちょっとしたハンデです。愛とか青春とかって見た瞬間に拒否反応を示すひとがいるはずだからね。確かにラブストーリー的側面もあるけど、それよりもっと深い物語なので、この題名のせいで興味を失って観るのをやめてたとしたらもったいないなあとお節介に思うのです。

ただ、この場合は原題もちょっと難しくて、アメリカ人でも理解不能なひとが多いかもしれません。『An Officer and a Gentleman』というのは、直訳では『士官と紳士』ですが、実はアメリカの軍事法の基礎、統一軍事司法典(Uniform Code of Military Justice=通称「統一軍法」「UCMJ」)の第133条、『Conduct Unbecoming An Officer And Gentleman』という法律用語からきています。「士官は常に紳士淑女であるべき。紳士淑女に相応しくない振る舞いをした場合は罰せられる」という条項です。愛とか青春とかいう甘酸っぱい話じゃないのです。

ということで、『最高の人生の見つけ方』に話を戻すと、原題の『Bucket List』はつまり、生きてるうちにやっておきたいことのリスト。死ぬまでにいつか必ずこれをやるぞ!という願いを書いておくリストのことです。映画では余命6ヶ月を宣告された二人の男がそのリストを作成し、ひとつずつ実行していきます。主演はジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンです。まあこの二人が主役なら、どんな残念な邦題でも興味を持つ人は多いかもしれませんね。それにしても配給会社が邦題を決定する会議を一度でいいから覗いてみたいです。

やることリストとバケットリスト

やることリストは、日常的なものは『TO DO』リストってのに記入していますが、だいたい記入して満足して忘れちゃって後で大変なことになります。学生時代に授業のノートをコピーして満足して試験直前に慌てるのと同じやつです。

しかし決して忘れちゃーならないのが、『アラジンと魔法のランプ』に出てくる魔法のランプの精に叶えてもらいたいお願い3つです。所詮ファンタジーと切り捨てるのも自由ですが、わたしは信じたい。いつか彼が目の前に現れることを。で、そのお願い3つは常に唱えて記憶しておかないといけませんよ。だって、いざってときに焦ってどうでもいいようなことをお願いしてしまうと後悔してもしきれませんから。「ああラーメン食べたい」と思いながら歩いてるときに突如ランプの人が現れて「ラーメン!」と叫ぶことのないように、いつもお願いをきっちり胸に刻んでおくのがよいでしょう。

ちなみにわたしのお願いは、

  • どんだけ酷使しても壊れない強靱な肉体
  • 寝ないで生きられる身体のシステム
  • 非常に高い基礎代謝

こんな感じです。1〜2番はほぼ定番。なにしろ無茶をしたいのです。世の中には観たい映画や読みたい本が多すぎる。それらを全部満喫するには時間が足りないのです。ゆっくり寝てる場合じゃないのです。なんせ人生は短い。いつまで動ける身体でいられるかもわからない。というわりにトレーニング等の辛いことは大嫌いなのでランプ様にお願いせざるを得ないのです。3番だけはそのときの気分で変動しますが、非常に高い基礎代謝というのはつまり、なにを食べても太らない身体だといいなあというダメ人間ならではの他力本願です。

では、バケットリストはどうでしょう。

その日暮らしで流れ流され生きてきて、そもそも計画とか目的という概念があまりないので、実はまだちゃんとリストアップしたことはありません。

しかし、ただひとつ、生きてるうちにどうしてもどうしても行きたいゴルフ場だけはありました。それが

BANDON DUNES Golf Resort(バンドンデューンズ)なのです。

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場所はアメリカ西海岸のオレゴン州。州都はセイラム、人口最多の都市はポートランド。SILVYでもお馴染み、シェイマスゴルフやジョーンズスポーツのお膝元です。なんだ、オレゴンなら別に行けるじゃん、と思われるかもしれません。だがしかし、オレゴンはとても大きいのです(面積は全米第9位)。

日本からぺろっとポートランドに行くだけならハードルはそんなに高くありません。しかし、バンドンデューンズがあるのは、ポートランドから激しく南下したクーズ郡(Coos County)のバンドンという港町。たとえばポートランド国際空港から車で行こうとすると5時間ほどかかる。あとは飛行機を乗り継いで車で2〜3時間で行ける距離にある町(ユージーンやメドフォード)まで移動するか、あるいは、よりゴルフ場に近い街の空港まで小型飛行機で来るか。いずれにしてもややこしい。なかなか重い腰が上がらない場所なわけです。決心するには相当の気合いが必要なのです。なので、ぐうたらなわたしはきっと行けないまま一生を終えるんだろう…儚い、と思ってたのです。

でも、行きたい行きたい行きたいよーってずーっと念じ続けて、スキあらば写真眺めてハァハァしてたら、ご縁が空から降ってきた。それもシェイマスとジョーンズ絡みで!

ありがとう!ほんとにありがとう!たったひとつのバケットリストを叶えてくれて♡

そして、いざバンドンデューンズへ!

どん!どどん!

なんじゃこりゃあああああ!

こ、こ、こんなの、あたい、見たことありません。空も海も波も芝生もうねる地表もトゲトゲの葉っぱさえもが美しすぎます。これぞカンペキな調和です。

臨むは太平洋。そしてバンドンデューンズのデューン=DUNEは砂丘のこと。デビッド・リンチ監督の『デューン/砂の惑星』って映画のデューンと同じです。村上ショージが叫ぶやつとは違います。

バンドンデューンズのはじまり

再生紙でグリーティングカードを作り、たいへんに成功したアメリカの実業家、マイク・カイザー氏は、ゴルフ発祥の地スコットランドのリンクスに魅せられていました。また、長年にわたって世界の名門コースでプレーして、そのほとんとがプライベートクラブであることに疑問を持っていました。「すべてのゴルファーが名門コースでプレーする機会を持つべきだ」と強く思ったのです。そして自身の思う理想のゴルフ場を作る決心をしました。

ここで公式サイトから抜粋してみましょう。

現在のラインナップ

どーです。わくわくしてきましたか?まだまだほんの序の口ですよー。

1999年の始まりから21年、2020年現在、バンドンデューンズは6つのコースを有しています。

麗しの荒野、BANDON PRESERVE/バンドンプリザーブ

今回は、というかきっと最初で最後の旅だけど、わたしが回ったのはズバ抜けてモーレツに評価の高いPACIFIC DUNES=パシフィックデューンズとBANDON PRESERVE=バンドンプリザーブ。

まず最初に、バンドンデューンズで5番目に造られたちょっと風変わりなコースから紹介しましょう。「Preserve」は自然保護地域という意味です。どういうことかというと、ここで得られた収益の全額は、オレゴン州南部の海岸の保全、コミュニティ、経済を支援する団体、Wild Rivers Coast Alliance=ワイルドリバーズ・コースト・アライアンスに直接寄付されるというのです。わたしが知らないだけかもしれませんが、収益を全部寄付だなんて聞いたことがありません。6コースもあるからこそ出来ることとはいえ、すんばらしいです。感謝です。

なにもかもがユニークで、他では得難い経験ができるバンドンプリザーブは、計13ホールのPAR3コース、つまりショートコースです。全ホール、大西洋をバックにお散歩ができる絶景コースでもあります。わたしが回った日は重たい曇天で海はこれっぽっちも見えなかったけど、それでも十分に美しく楽しくチャレンジングなコースでした。だって、見てこれ。圧倒的な存在感でしょう。というか、言われなければゴルフコースってわからないよね。牧場?って思うかも。あ、これはプリザーブじゃなかった。「プリザーブはあちら」って看板がありますね。まあ細かいことはさておき、

あああ!絶対にここ、天国でしょー!美しすぎるもん。

ほら、ふたりのおにいさんたちが天国に足を踏み入れてる。

あああ戻りたい。戻りたいですここに!今いま今すぐ!

そして、ゴルファーの心を鷲づかみにするシャレた小物たち、ございます。

まずはスコアカードね。

ステキすぎる。こんなステキなスコアカード、ショートコースで見たことないよ。またこのロゴマークがいいの。グッズもいっぱいありました。

このときはまだ5コースしかなかったので、5コースそれぞれのロゴ入りボールたち。でも6種類あるよね。右下の「PB」ってのがあとで出てくる「THE PUNCHBOWL=パンチボウル」というナゾの場所なのです。もしかしたら今はこの子が外されて、出来たてほやほやの「SHEEP RAMCH=シープランチ」コースのロゴに取って代わられてるかも。

そして、ピン位置の紙と超絶可愛いマーカーたち。ちょっと奥さん、ピン位置の紙なんてショートコースで見たことありませんわよね?でもこれ、大事です。グリーンがかなり「どんぶらこ」してるから=波打ってるから。そんでもっておっきいから。

でもってこのマーカーがまた、もう、くすぐりまくってくるのです。木製のさ、素朴なさ、でもスタイリッシュでさ、もう!好き!大好き!

  

小屋の前にいるスターターのおじさまにスタート時間など伝えて、もし担ぐバッグが必要ならば小屋の中にジョーンズのキャリーバッグが売るほどあるので、レンタルできます。手引きカートもあります。

担いだら、いざ出陣!

どう考えてもスコットランドのリンクスですよね。ピン位置に応じて、絶対に乗せてはならぬ場所がたーくさんありそうです。というより、ここしかダメ!と要求してくる感じ。

野趣あふれまくりの猛猛しいバンカー。

古墳のような丘。東京の世田谷区に野毛大塚古墳って似た感じのがあるんですよ。

そして丘のてっぺんには吹きっさらし感満載のベンチ。なんというワビサビでしょう。

担いだり、引いたり、それぞれのプレースタイル。しかし共通しているのは手に持ったビール。ゴルフは遊びなんだって再認識します。

さらに!キャリーバッグの下部、アミアミ部にはスピーカー。音楽聴きながら、ビールちびちびやって、お散歩して、合間にゴルフする。これ以上の贅沢、思いつきません。欧米人は徹底的に楽しむ術を知ってる。あやかりたい。

日本のコースでもたまに見かけるけど、フラッグにホール番号が書いてあるとわかりやすくて助かる。基本スコアをつけずに遊んでるので、いま何番だっけ?ってわからなくなることが多いので。あと、ここプリザーブの場合は特に、激しく大自然なので、今自分がどこにいるのか、次のホールがどこにあるのか、ちょっと見失いがちだからなおさら助かる。

もじゃもじゃラフの探索隊。入りどころが悪いとボールはなかなか見つかりません。

古墳帰りの旅人たち。

なにしろスケール感が尋常じゃーないのです。ショートコースだってえのに。

冒険家たちの進む道は険しい。しかし手には必ずビール缶。

一コ前の写真、旅人達の背後に見えてる10番ホールのグリーンを別角度から。「どんぶらこ」っぷりがハンパねえっす。

入れちゃ、ダメ!ゼッタイ!のバンカーたち。

土砂崩れの痕にあらず。

自然に溶け込むホール表示。ここにプラッチックとかステンレスの看板はそぐわないもんね。

そして最終13番ホールの丘(ティーインググラウンド)に着くやいなや、ニヤニヤっとしながらパターを取り出す地元の二人。そうなんです、このホール、75〜109yの打ち下ろし。なんだけど、ティショットするとき結構な風をくらうので、ロフトのあるクラブが必ずしも良い結果には結びつかないのです。バンカーも束になって待ち構えてることだしね。

ということでオススメは左サイド、バンプエンドラン(転がし)あるいはパッティング。いやあしかし、地元の二人がいなかったら、パターで打つなんてちらりとも思わなかったわ。これぞリンクス、なんだろうね。ティーショットをパターで。またどっかでやってみたいな。

そしてひたすらデカい、THE PUNCHBOWL/パンチボウル

さてさて、さっき、ナゾの場所と言ってた「PB」ことパンチボウルは巨大なパッティングコース。を、まずは下から。

そして上から。どんぶらこどんぶらこ。

ところで、なにゆえにTHE PUNCHBOWL=パンチボウルと呼ばれているのでしょう。このエリアは自然が織りなす窪みの集合体。パンチボールは「山間のくぼ地」の意です。ゴルフ建築家による昔からの設計コンセプトなんだそうです。バンドンデューンズ4つめのコース、OLD MACDONALD=オールドマクドナルドコースの18番ホールも同じ原則を共有しているため(設計者が同じ)、パンチボウルと名付けられているとのこと。ネーミングがおそろしく洒落てます。日本の代理店からは出てこないセンス。

こちら、予約不要かつ無料で遊べます。営業時間は14時から日没まで。つまり、コースを回ってきてから、皆で飲みながらキャッキャいって遊ぶ場所というわけです。18ホールあり、ヤーデージは日によって変わるようです。前述の通り、設計はOLD MACDONALDを手掛けたトム・ドークとジム・アービナのチーム。約10万平方フィート(2.3エーカー)の広さで、プレーにかかる時間は約1時間です。やー、上がる頃にはぐでんぐでんですわい。

だって、毎ホールに置いてあるもん。カップホルダー。さすがの装備。

ガソリン補給コーナーもあるしね。

なにがビックリって、ヤーデージブックまで揃ってるってこと。徹底してます。

なにしろこんな感じなので、わっけわかんなくて、キョーレツに楽しかったです。

バンドン村の夜は更けて。

次回は本コース、魅惑のPACIFIC DUNESを紹介いたします。どうぞお楽しみに!

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▼文と写真と絵▼

リサオ(大隈 里砂)−  元超インドア文学少女。遅咲き・狂い咲きゴルファー。コラムニスト、似顔絵作家、イラストレーター、フォトグラファー、翻訳家(英語)として(自称・ひとりスキマ産業)、主にゴルフ業界で活動

プレースタイル:山っ気たっぷり、策に溺れ式/特技:無駄ロブ(不必要なロブショット)/好きなライ:ヘンなライ、下りフック/苦手なライ:フェアウェイど真ん中/好きな言葉:インテンショナル/子供の頃の将来の夢:電気屋さん